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食と音.1  —音編—

初夏を迎えた5月5日。青々とした新緑が揺れる中、シンプルズは一周年を迎えました。
移転してからこの日を迎えられたのは、お客様をはじめ生産者の方々、関わっていただいた皆様のおかげです。この場を借りて感謝を申し上げます。


今回は、食と音楽をテーマに「FRUE」のメンバーと企画をしました。


タイトルは、「simples×FLUE presents shoku to ne  ”-食と音-”」

simplesを語る上で切っても切り離せない、食と音楽の融合です。

共にイベントを作り上げてきた「FRUE」は、音楽イベントのプロフェッショナル。
魂の震える音楽体験をコンセプトに、世界中から素晴らしいアーティストを召喚し、イベントを開催しています。

様々なジャンルの音楽を通し、異文化や豊かな精神に触れることで固定概念にとらわれず、個々の視点が広がってほしい。そんな願いのもと、続けられています。

7年前にお付き合いが始まり、今ではシンプルズを語る上でなくてはならない存在です。


今回のアーティストは、ファビアーノ・ド・ナシメント。

ブラジルミュージックのミュージシャンです。
豊かな音楽環境の中で育まれた卓越とした演奏技術と同時に、ブラジルの伝統に深く根ざしながら、ジャズやエレクトロニカなどの要素も取り入れ、独自の音楽を開拓しているアーティストです。なんといっても、その魅力は清らかで繊細な演奏です。


今回は、一般的なステージはなく、simplesの庭の真ん中にマイクスタンドを用意しました。
足元には、青々とした新緑と小石が広がります。
「ここがステージ!?」と、初めは驚いていたファビアーノに、まずお伝えしたのは19時には真っ暗になることと周辺への音の響き方です。



今年のゴールデンウィークは、天気の良さが印象的でした。気持ちの良い5月晴れは、音がどこまでも飛んでいきます。なので、お客様には好きな場所で楽しんで欲しいと思いました。それは、音響が駆使され、客席が決められたコンサートホールでは味わえない楽しみ方です。




客席は自由に、思い思いに好きな場所に座っていただきました。
川を背に手すりに寄りかかるもよし、庭の石畳に座るもよし、離れた場所で風に乗った音楽に耳をすませるもよし。すべては、個々の自由です。


ファビアーノの音楽は、さざ波のように優しいものでした。初夏の日差しがだんだんと陰り、涼しくなるほどに、さっきまで鳴いていた鳥の鳴き声は聞こえなくなり、川のせせらぐ音が聞こえてきます。
気づけば辺りは暗くなり、星の瞬きの中、とまることなく穏やかに流れる音楽は自然の息吹そのものでした。


シンプルズの裏側には、茶畑があります。
そちらの地主様のご好意で、茶葉を詰み、香りを楽しみました。

普段から何気無い会話をしたり、お世話になっている地域の方々にも集っていただき、この土地に根ざしお店を営んでいること、食を通して様々な関わり合い方があることを再実感しました。


泉ケ谷には、吐月峰柴屋寺というお寺があります。銀閣寺に所縁がある、月見が有名な名所であり、戦ではなく文化を愛した僧侶が営んでいました。月夜の晩に人々が集い、共に歌を詠んでいたそうです。ふとそのことを思い出し、泉ケ谷に音が戻り、町が喜んでいるような不思議な感覚を覚えました。


作り込み過ぎていない豊かな自然の中だからこそ、お届けできる体験があります。
それは、泉ケ谷という風土、食と音楽、足を運んでいただいたお客様がいてこそのこと。
あらゆるものが融合した時間は、私たちも自然の中の一つであるという実体験を得るようなひと時でした。

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