食事は、昼の部の「UTAGE」と夜の部の「BANSAN」のご用意をいたしました。

「UTAGE」は、コース料理のご提供です。
魅力ある食材を、今一番美味しく食べていただけるように仕立て、視覚から味覚まで楽しんでいただけるように組んでいきました。

いつもは閉められているガラス扉を開け放てば、初夏の風が行き来します。青々とした、揺れる緑の気配を背に感じながら嗜む「UTAGE」は、とても和やかなものでした。

そして、刻々と時間は進み、ライブの時間へ。豊かな自然の中、音楽に身を委ね、今ここに流れる時間を堪能する。

鳥の鳴き声や川のせせらぎ、ファビアーノの音楽によって、心身が解きほぐれていくような感覚を味わいました。聴覚をフルに使うほど、自然に包まれているような実感があるのです。

陽は沈み、ライブが終わった後は、夜の部「BANSAN」です。「BANSAN」で、大切にしたことは「触覚」をつかうことでした。触覚とは、肌で触れる感度のことです。どういうことかというと、simplesが用意したものは大きなバナナの葉と作りたての料理、各自のお皿のみ。そこには、箸やカトラリーはありません。

「夜の部は立食スタイル。箸を使わず、手で食べてもらいます。ライブで聴覚を使っていただいた後は、触覚を使って楽しんでください」

ライブ後、オーナー井上がアナウンスした時、お客様がざわめきました。戸惑いよりも、面白がっているような様子でした。

そして、このBANSANの実現は、駆けつけてくれた料理人仲間の協力がなければ、成り立ちませんでした。

Simplesが、彼達にお願いしたことは一つ。

 「普通は、手で食べないものを作ってください」ということでした。

協力していただいたのは、中華料理の華音、ナチュラルワインのアンジュール・マルシェ、ネパール料理ADI、手打ち蕎麦のめぐり、SHUSANのみなさんです。

料理を乗せるバナナの葉っぱは、当日牧之原の農家さんまで、往復２時間をかけて取りに行ったものでした。いつかここぞという時に使いたいと思っていた、プリミティブな素材です。

徐々に慣れていくように、最初はフィンガーフードでスタートをしました。

ADIのパニプリ（春巻きのようなネパールの料理）から始まり、めぐり庵のそばがき、きりそば、そばの実と続きます。終盤に近づけば、華音の麻婆豆腐やネパールカレーなど、手で食べるという概念を超えた料理が出てきます。

最初は戸惑っていたお客様も、だんだんと手で食べることに慣れていきます。

それは、どこで掴めばどれほどの量ならば熱くないかなど、繰り返していくうちに自分なりの解釈が生まれてくるからです。大量に置くと熱さを感じやすいので、少量ずつ手のひらの下部に置くことで、より熱さは感じにくくなります。

興味深いことは、様々なことに興味を持っている人は、楽しむ事が上手だということです。

「麻婆豆腐も意外と手で食べられる」「カレーは楽勝だった」など、笑うお客様の姿は、作り手である私たちから見ても面白いものでした

どうしても手で食べたくないお客様にはお箸を用意し、汚れた手はすぐに洗えるように、厨房と客席を開け放していました。やるからには楽しく、だけれど、無理はしない。今日はお客様もスタッフも共に楽しむ。そこには、境界線はありません。

お客様にイベントの感想を伺ったところ、とてもシンプルな感想をいただきました。

「最高だった」「永遠に聞いていられる、永遠に食べていられる」

私たちも、同じ気持ちです。

 固定概念を手放し、ラフに和気藹々と楽しめる空間は、他にはない魅力だと自負しています。そして、それはsimplesだけでなく、FRUEのコンセプトにも通じるものがあります。

食は生きる営み。だからこそ、あらゆるものと掛け合わせることができます。けれど、何でも良いというわけではありません。

私たちの価値観や見ている視点、お客様にお届けしたいものが一致した仲間達だからこそ、共に作り上げることができます。一周年を迎えたこの日、様々な方にお祝いをしていただきました。本当に、ありがとうございます。

これからも、simpleであることを大切に。

泉ケ谷という魅力ある地と共に、あっと驚く食の体験をお届けしていけたらと思います。

来年のイベントも、楽しみにお待ちください。